オーバードーズ(OD)による若者の救急搬送が増え続けるなか、2026年5月1日、改正薬機法が施行されました。その中心にあるのが「指定濫用防止医薬品」という新しい区分です。
これまでも「濫用等のおそれのある医薬品」として販売規制はありましたが、今回の改正で法律上に明確に位置づけられ、対象成分も拡大されました。
規制は段階的に強化されてきた
平成26年(2014年)に法令上の規制が整備され、「濫用等のおそれのある医薬品」として販売ルールが定められました。さらに令和5年(2023年)4月には対象範囲が拡大され、鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども規制対象に加わりました。
そして今回の令和7年薬機法改正(令和8年5月1日施行)で、はじめて法律上に「指定濫用防止医薬品」として明確に位置づけられました。省令レベルの規制から、法律レベルへの格上げです。OD対策はこの10年で段階的に強化されており、今回はその集大成といえます。
対象成分は6成分から8成分へ
指定濫用防止医薬品の対象成分は、2026年5月1日から8成分になりました。
従来からの6成分:
- エフェドリン
- コデイン
- ジヒドロコデイン
- ブロモバレリル尿素
- プソイドエフェドリン
- メチルエフェドリン
新たに追加された2成分:
- デキストロメトルファン(鎮咳薬に広く含まれる成分)
- ジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン薬・睡眠改善薬に含まれる成分)
この2成分の追加が、現場への影響として特に大きいと感じています。
薬局での対応義務
指定濫用防止医薬品を扱う薬局・ドラッグストアには、以下の対応が求められます。
年齢確認の義務化:18歳未満への販売禁止。購入者の年齢確認が必要です。
陳列規制:購入者が直接手に取れない場所への陳列、または薬剤師・登録販売者が常時監視できる場所への陳列が必要です。
販売数量の制限:原則として1回の販売は小容量・少数量(5日分以下が目安)に制限されます。
購入理由・状況の確認:大量購入・複数購入の場合は、理由の確認が求められます。
記録保管:販売記録の保管が義務付けられています。
デキストロメトルファンとジフェンヒドラミンの追加が意味すること
今回の追加成分2つは、これまでとは少し性質が違います。
デキストロメトルファンは、咳止め薬に幅広く配合されている鎮咳成分です。過量摂取すると錯乱・興奮・幻覚などの精神症状が起こりえます。メジコンせき止め錠Proや新コンタックせき止めダブル持続性など、身近な市販薬に含まれています。
ジフェンヒドラミンは、睡眠改善薬や抗アレルギー薬に含まれる抗ヒスタミン成分です。過量摂取により意識障害・せん妄・痙攣を引き起こす可能性があります。ドリエル・レスタミンコーワ・レスタミンUなど、ドラッグストアで手軽に買えていた薬が対象になります。
この2成分の追加は、データに基づいた判断です。全国86施設の依存症専門医療機関を対象にした調査(令和6年4〜5月、嶋根班)では、一般用医薬品の濫用で治療を受けた294症例のうち、**デキストロメトルファンが34.7%、ジフェンヒドラミンが17.7%**を占めており、すでに指定されていた成分と同等かそれ以上の実態があることが明らかになりました。
また同調査では、患者の平均年齢は29.1歳で、10代が24.5%・20代が37.4%と若年層が中心。**女性が71.4%**と大きく偏っていることも特徴的なデータです。
出典:厚生労働省「指定濫用防止医薬品の指定について」令和7年度第3回医薬品等安全対策部会 資料1-2(令和8年1月23日)/令和6年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 嶋根卓也班(国立精神・神経医療研究センター)
実際の販売フロー——薬局ではこう動く
制度が変わっても、実際の窓口対応はどうなるのか。施行通知(医薬発1226第16号・第17号、令和7年12月26日)をもとに整理します。
なお、厚生労働省は令和8年1月30日付で関係団体作成ガイドラインを周知する通知を発出しており、日本薬剤師会も「指定濫用防止医薬品販売等に関する業務手順書モデル」を公表しています。各薬局の手順書作成の参考になります。
参考:日本薬剤師会 業務手順書モデル(令和8年2月) / 厚生労働省 医薬品販売制度の改正内容(クローズアップ)
施行通知:医薬発1226第16号・医薬発1226第17号(令和7年12月26日、厚生労働省医薬局長)/ガイドライン周知通知:医薬総発0130第3号(令和8年1月30日、厚生労働省医薬局総務課長)
①陳列
施行通知では、第2類・第3類医薬品である指定濫用防止医薬品の陳列方法として2つの方法が示されています。
- 指定濫用防止医薬品陳列区画の内部の陳列設備に陳列する(ただし、鍵のかかった陳列設備や需要者が直接手に触れられない陳列設備に陳列する場合はこの限りでない)
- 情報を提供するための設備から7メートル以内の範囲に陳列し、当該設備にその薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師または登録販売者を継続的に配置する
日薬の手順書モデルでは、「需要者の手の届かない陳列設備や鍵のかかった陳列設備に陳列する」方法を採用しています。カウンターの背後への陳列などが実務上の例として示されています。
②販売時の確認事項(7項目)
施行通知では、薬剤師または登録販売者が販売時に確認すべき事項として以下の7項目が明記されています。
- 年齢
- 他の薬剤又は医薬品の使用の状況
- 購入しようとする者が18歳未満である場合には、当該者の氏名
- 当該製品及びその他の指定濫用防止医薬品の購入又は譲受けの状況(他店での購入状況を含む)
- 厚生労働大臣が定める数量を超えて購入しようとする場合は、その理由
- 適正な使用を目的とする購入であることを確認するために必要な事項
- その他情報の提供を行うために確認が必要な事項
18歳未満への販売・授与は禁止されており、年齢が確認できない場合は身分証明書等(学生証の場合は顔写真付きが望ましい)での確認も含めて薬剤師等が適切に判断することが求められます。
③数量の制限と大容量・複数個販売への対応
厚生労働大臣が定める数量(告示による)を超える販売は原則禁止です。18歳未満への大容量製品または複数個の販売は行いません。18歳以上への大容量・複数個の販売に際しては理由を確認し、適正使用を確保できないと認められる場合は販売しません。
なお、異なる指定成分を含む複数の指定濫用防止医薬品を同時購入する場合も「複数個の販売」に該当します。
④頻回・多量購入への対応——記録の活用
日薬の手順書モデルでは、頻回・多量購入対策として販売した医薬品及び購入者に関わる情報の記録を活用する方法を採用しています。
指定濫用防止医薬品を販売した場合は、法令上の定めに関わらず医薬品販売記録を作成・保管します。再購入者に対しては、前回の販売記録や薬手帳等を確認しながら、適切な服用期間・服用後の状況(副作用、効果、残薬等)を確認した上で販売の可否を判断します。確認した内容は次回の販売時に活用できるよう記録に残し、従業員間で適宜情報共有します。
⑤手順書の整備——薬局開設者の義務
法令上、薬局開設者は「指定濫用防止医薬品販売等手順書」を作成し、その手順書に基づいて業務を行わせなければならないとされています(施行通知 第3の2(7))。
手順書に記載すべき5項目は以下のとおりです。
- 販売又は授与の方法に関する手順
- 購入者への情報提供および販売時の確認に関する手順
- 陳列に関する手順
- 大量・頻回購入への対応の手順(適正使用を確保できないと認められる場合の対応を含む)
- その他適正な販売又は授与に関する必要と考えられる事項に関する手順
日薬の手順書モデルは、「自薬局・店舗で実行する方策を手順書に記載する」「手順書の通り実行する」の両方が実行できていない場合は法令事項の不遵守となる、と強調しています。手順書を作ることと、その通りに実際に動くことの両方が求められているわけです。
また、薬局の見やすい場所への掲示も義務とされており、掲示すべき事項として①指定濫用防止医薬品の定義と解説、②表示に関する解説、③情報提供に関する解説、④陳列等に関する解説、⑤購入の際は薬剤師または登録販売者に相談を勧める旨の5項目が定められています。
現場から見て
今回の改正で、確認・断る根拠が法律上明確になったことは、現場の薬剤師や登録販売者にとって一定の後ろ盾になります。「規則だから確認します」と言える環境は、対応する側の心理的な負担を減らします。
一方で、デキストロメトルファンやジフェンヒドラミンが追加されたことで、対象製品が大幅に増えます。これらは普通の風邪薬や花粉症の薬にも含まれている成分です。本当に必要な人への対応が煩雑になりすぎないよう、運用の工夫が必要だと感じています。
OD問題の本質は薬の販売規制だけでは解決しません。ただ、薬局が「入口」として機能することには意味がある。販売の場でのちょっとした声かけや確認が、誰かの命綱になることもあると思っています。
まとめ
- 2026年5月1日施行の改正薬機法で「指定濫用防止医薬品」が法律上に位置づけ
- 対象成分が6成分→8成分に拡大(デキストロメトルファン・ジフェンヒドラミンを追加)
- 薬局の義務:年齢確認(18歳未満禁止)・陳列規制・販売数量制限・記録保管
- 総合感冒薬・睡眠改善薬など身近な製品が対象に加わり、現場の対応範囲が広がる
この記事の制度に関する記述は2026年5月施行の改正薬機法に基づいています。詳細は厚生労働省の告示・通知をご確認ください。

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