「カスハラ対策が義務になるのはわかった。でも、具体的に何をすればいいの?」
そう感じている管理薬剤師の方、多いのではないでしょうか。
2026年10月1日から、改正された労働施策総合推進法によって、カスハラ対策がすべての事業主の義務になります。薬局も例外ではありません。
さらに7月には、厚生労働省から「薬剤師の調剤応需義務等について」という通知が出て、どんなときに調剤を断れるのかが整理されました。
ところが、調べてみると、薬局向けの公的な対応マニュアルは、まだ見当たりません。
日本薬剤師会の調査(2025年)でも、現場から「事例集や対応マニュアルを整備してほしい」という声が上がっています。
そこで、病院薬剤師10年以上・現在は薬局で働く私が、通知と指針をもとに「薬局のカスハラ・未払い対応マニュアル例」を作ってみました。
⚠ はじめにお読みください
このマニュアルは、現場の一薬剤師が公開されている通知・指針をもとに作成した一例です。法的な正しさを保証するものではありません。
実際に導入するときは、会社の方針・就業規則に合わせて調整し、必要に応じて弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談してください。
通知そのものの解説は、こちらの記事にまとめています → 薬局のカスハラ、断っていいの?「調剤応需義務」の新通知を現場の薬剤師が読んでみた
このマニュアルのもとにしたもの
- 厚生労働省 医薬発0708第1号「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月8日)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2026年2月告示)
- 日本薬剤師会「薬局業務におけるカスタマーハラスメント発生時の対応事例に係るアンケート調査」(2025年6月)
日本薬剤師会の調査では、カスハラをした人の71.4%が男性、50〜70代が約7割でした。
行為として一番多かったのは大声・暴言・脅迫(62.2%)で、次いで過剰・不当な要求(42.0%)、不当なクレーム(31.6%)、長時間の拘束(27.9%)でした。
「うちの薬局だけじゃないんだ」と、少しほっとしたのを覚えています。
第1章 基本方針
まず、薬局としての考え方をはっきりさせます。スタッフ全員が同じ認識を持つための土台です。
〇〇薬局 カスタマーハラスメントに対する基本方針(例)
この方針は、スタッフ向けに共有するだけでなく、待合室に掲示するのもおすすめです。
日本薬剤師会が、カスハラ防止の啓発ポスターを無料で公開しています。あわせて使うと効果的です。
第2章 それは「カスハラ」?判断のチェック
一番大切なのは、正当なご意見とカスハラを区別することです。
通知でも、調剤内容や接遇についてのもっともな指摘、説明を求めること、改善を求める意見は、断る理由にはならないとはっきり書かれています。
ステップ1:要求の「内容」は正当か?
| 正当なご意見の例 | カスハラになりうる例 |
|---|---|
| 待ち時間が長いので、目安を教えてほしい | 待たせたことに対して土下座を求める |
| 薬の説明がわかりにくかった | 調剤と関係のない個人的な不満を何度も言い続ける |
| 前回と薬の見た目が違う理由を知りたい | 説明しても納得せず、言葉尻をとらえて責め続ける |
ステップ2:言い方・やり方(手段・態様)は許される範囲か?
内容がもっともでも、次のような手段・態様であれば、カスハラにあたる可能性があります。
通知で示された5つの型をもとにしています。
| 型 | 具体例 |
|---|---|
| ① 暴力・威嚇 | 身体的な暴力、物を投げる、机を叩く、大声で恫喝する、脅す |
| ② 暴言・人格否定 | 侮辱的な言葉や、人格を否定する発言をくり返す |
| ③ しつこい謝罪要求・拘束 | 土下座の強要、数時間の居座り、しつこい電話 |
| ④ 揚げ足取り・不当な追及 | 調剤と関係ないクレームをくり返し、言葉尻をとらえて責める |
| ⑤ 犯罪にあたる行為 | 暴行、脅迫、器物損壊など |
ステップ3:業務への影響は?
あわせて、次のような影響があるかも確認します。
- スタッフの集中が妨げられ、調剤ミスが起きかねない
- 待合室が騒然として、ほかの患者さんの安全やプライバシーが守れない
💡 急かされるのはカスハラ?
「まだ?」「早くして」と急かされるのは、ほとんどの場合カスハラにはあたりません。待ち時間の目安を伝える、声をかけるなどの通常の対応で十分です。
ただし、机を叩く、大声で怒鳴る、執拗に責め立てる、となれば①や④に当たる可能性があります。
第3章 段階ごとの対応フロー
通知では、カスハラにあたるだけでは調剤を断れず、「信頼関係がすでに失われているか」で判断するとされています。
その例として「警告書を出したり、複数人で説得したりしても改善されない場合」が挙げられています。
つまり、段階を踏んで対応し、その記録を残すことが欠かせません。
レベル1:初期対応(窓口の担当者)
- 落ち着いて話を聞き、事実を確認する
- こちらに非があれば、その点については謝罪する(非がない点まで謝る必要はありません)
- 待ち時間など、説明できることは丁寧に説明する
レベル2:複数人での対応(言動がエスカレートしたら)
- ひとりで対応しない。すぐに管理薬剤師やほかのスタッフに声をかける
- 可能であれば、ほかの患者さんから離れた場所で対応する
- 対応中の言動を、できるだけ具体的にメモしておく
- 「これ以上大きな声を出されると、ほかの患者さまのご迷惑になります」など、やめてほしい行為を具体的に伝える
レベル3:口頭での注意・対応の打ち切り
- 管理薬剤師から、「このような言動が続く場合は、対応を終了させていただきます」と伝える
- 居座りや長時間の電話は、時間を区切って対応を終える
- 本部・会社の担当者に当日中に報告する
レベル4:書面での注意(警告)
- 同じような言動がくり返される場合は、書面で注意する
- 書面には「いつ、どんな言動があったか」「やめてほしい行為」「続いた場合の対応」を簡潔に書く
- 書面の内容は、会社の担当者や、必要に応じて弁護士に確認してもらう
レベル5:調剤をお断りするかどうかの判断
- 窓口の担当者ひとりで判断しない。管理薬剤師と会社で判断する
- 通知に沿って、次の点を確認する
- 緊急性はどうか(すぐに薬がないと命や体に重大な影響が出るおそれはないか)
- 信頼関係が失われたといえるだけの経緯と記録があるか
- 精神疾患などの背景がある場合は、主治医や行政と相談・連携したか
- お断りする場合も、ほかの薬局で薬を受け取れるよう配慮する
緊急時(いつでも)
- 暴力、刃物などの危険物、脅迫など身の危険がある場合は、段階を飛ばしてすぐに110番
- スタッフと、ほかの患者さんの安全確保を最優先にする
第4章 記録シートの例
「信頼関係が失われた」と判断するためにも、スタッフを守るためにも、記録がすべての土台になります。
次の項目を、紙でもデジタルでもいいので残しておきましょう。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 日時 | 2026年〇月〇日(〇)15:20〜15:50 |
| 場所 | 投薬カウンター |
| 対応したスタッフ | 薬剤師A、薬剤師B(管理薬剤師) |
| 患者さんの言動(できるだけそのまま) | 「〇〇〇」と大声で3回。カウンターを2回叩いた |
| きっかけ | 待ち時間が約40分になった |
| こちらの対応 | 待ち時間の理由を説明。レベル2で管理薬剤師が対応 |
| 業務への影響 | 調剤を約20分中断。待合室の患者さん2名が退出 |
| その後の経過 | 15:50に帰宅。本部に当日報告済み |
| 目撃者 | 事務スタッフC |
💡 記録は「感想」ではなく「事実」を書くのがポイントです。「怖かった」ではなく「カウンターを2回叩いた」と書きます。
第5章 未払いへの対応フロー
未払いは、カスハラとは別に整理しておきたいテーマです。
通知では、調剤を断れるのは「悪意のある未払い」の場合とされています。
悪意のある未払いの例(通知より)
- 過去の未払いが続いていて、また払われない可能性が極めて高い
- 支払い能力を確認するために保険証などの提示を求めても、拒否する
一方で、生活が苦しい、一時的に手持ちが足りないといった事情がある場合は、これにはあたりません。
また、薬を渡さないことで命や体に重大な影響が出るおそれがある場合は、未払いの状況を考えたうえで適切に対応するよう求められています。
対応の流れ(例)
- その場で確認:支払えない理由を、責めずに聞く
- 記録:日付、金額、理由、次の支払い予定を記録する
- 支払い計画を一緒に立てる:分割の回数や金額を、無理のない範囲で相談する
- 「古い分から払う」のか「新しい分から払う」のか、充てる順番もはっきり決めておくと、未払いが膨らみにくくなります
- 支援につなぐ:生活が苦しそうな場合は、自治体の福祉の窓口や、主治医・医療機関のソーシャルワーカーへの相談を案内する
- 管理薬剤師・会社に報告:金額が大きい、長く続いている場合は、対応を会社で検討する
- 悪意が明らかな場合:記録をもとに、会社として今後の対応を判断する
💡 以前いた店舗で、生活が苦しく、心の病気も抱えた患者さんの未払いが膨らんでいったことがありました。そのとき感じたのは、「断るかどうか」より「どう支援につなぐか」を先に考える仕組みが必要だということでした。
第6章 在庫がないときの対応フロー
意外と見落としがちですが、通知では、
処方箋に記載された医薬品がその薬局に備蓄されていないことを理由とした拒否は認められない
とはっきり書かれています。
限定出荷や供給停止の薬が多い今、ここはとても大事なポイントです。
対応の流れ(例)
- 取り寄せの目安を確認:卸に在庫と納品時期を確認する
- 患者さんに説明:いつ受け取れるかを伝え、後日のお渡しや配送が可能か相談する
- 急ぎの場合:取り寄せに時間がかかるなら、すぐに調剤できる近くの薬局を責任をもって紹介する(紹介先には事前に電話で在庫を確認する)
- 供給不足の薬の場合:処方医に疑義照会し、代わりの薬を相談する
※供給不足の薬への実際の対応は、こちらの記事でも紹介しています。
第7章 開局時間外の対応
- 地域連携薬局など、夜間・休日の対応をすることになっている薬局以外では、緊急性のない処方箋は、翌日の開局時間に来てもらうよう案内できます
- その場合も、地域の夜間・休日に対応している薬局や当番薬局を紹介するのが望ましいとされています
- 近隣の当番薬局の一覧を、すぐ出せるように準備しておきましょう
第8章 厚労省の指針と照らし合わせたチェックリスト
10月からの義務化で、事業主に求められる措置は、厚労省の指針で10項目に整理されています。
このマニュアル例と照らし合わせると、次のようになります。
| 指針の措置 | このマニュアル例での対応 | チェック |
|---|---|---|
| ① 方針の明確化と周知 | 第1章 基本方針、待合室への掲示 | □ |
| ② カスハラの内容と対処の周知 | 第2章 判断チェック、第3章 対応フロー | □ |
| ③ 相談窓口の設置と周知 | ※会社で窓口を決め、スタッフに周知する | □ |
| ④ 相談担当者が適切に対応できる体制 | ※担当者向けの研修などを会社で実施する | □ |
| ⑤ 事実関係の迅速な確認 | 第4章 記録シート | □ |
| ⑥ 被害を受けたスタッフへの配慮 | ※休憩・配置換え・メンタルケアなどを会社で決める | □ |
| ⑦ 再発防止 | 第3章 レベル3〜5、記録の振り返り | □ |
| ⑧ 悪質な事案への対処方針 | 第3章 緊急時・レベル5 | □ |
| ⑨ プライバシーの保護 | ※相談内容や記録の管理方法を会社で決める | □ |
| ⑩ 相談したことを理由に不利益に扱わない | ※会社の規程に明記する | □ |
「※」がついている項目は、薬局の現場だけでは決められない、会社としての仕組みです。
管理薬剤師の方は、本部や経営者と話し合うときのたたき台にしてみてください。
まとめ
- 10月1日から、カスハラ対策はすべての事業主の義務に。薬局も例外ではない
- まずは基本方針を決め、正当なご意見とカスハラを区別することから
- 調剤を断るかどうかは、段階を踏んだ対応と記録をもとに、ひとりではなく管理薬剤師・会社で判断する
- 未払いは「断る」より先に「支援につなぐ」
- 在庫がないことだけを理由に断るのはNG。取り寄せや他の薬局の紹介を
- 相談窓口やスタッフへの配慮など、会社としての仕組みも欠かせない
カスハラ対策は、スタッフを守るためのものです。
そして、スタッフが安心して働ける薬局は、結果的に患者さんにとっても安心できる薬局になると、私は思っています。
このマニュアル例が、あなたの薬局で話し合うきっかけになれば嬉しいです😊
参考
- 厚生労働省 医薬発0708第1号「薬剤師の調剤応需義務等について」(令和8年7月8日). https://www.mhlw.go.jp/content/001720004.pdf
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
- 日本薬剤師会「薬局業務におけるカスタマーハラスメント発生時の対応事例に係るアンケート調査結果報告」(令和7年6月). https://www.nichiyaku.or.jp/files/co/pr-activity/press/20250619_01.pdf
- 日本薬剤師会「カスタマーハラスメント防止啓発ポスター」


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