はじめに
「プロ・バンサインが、供給停止……?」
多汗症の飲み薬として知られるプロ・バンサイン錠が、2026年9月から出荷停止になりました。
皮膚科の処方が来たときに慌てないよう、あらかじめ調べておくことにしました。
調べてみると、この薬の供給停止は、ルリコンやケフラールのときとは性質がまったく違うことがわかりました。
同成分・同規格の後発品や代替銘柄がないため、単純な銘柄変更では対応できないのです。
この記事では、多汗症に対して処方されているプロ・バンサイン錠15mgを前提に、
- プロ・バンサインはどんな薬で、今どういう状況なのか
- 疑義照会で何を確認し、処方医とどんな相談ができるのか
- 患者さんにどう説明すればいいのか
を、電子添文と日本皮膚科学会のガイドラインをもとにまとめました。
プロ・バンサインってどんな薬?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | プロパンテリン臭化物 |
| 分類 | 抗コリン性鎮痙剤 |
| 規格 | 錠15mg |
| 製造販売 | ファイザー |
| 後発品 | なし |
| 用法・用量 | 成人1回15mgを1日3〜4回 |
適応を見ると、胃・十二指腸潰瘍、胃酸過多症、幽門痙攣、胃炎、腸炎、過敏大腸症、膵炎、胆道ジスキネジー、夜尿症・遺尿症……と、昔ながらの胃腸薬のような顔ぶれが並びます。
その中に多汗症が入っているのが、この薬の大きな特徴です。
消化器症状や夜尿症などにも適応を持ちますが、皮膚科領域では多汗症治療薬として認識されることの多い薬です。
日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」でも、プロ・バンサインは本邦で唯一、多汗症に保険適用を有する抗コリン薬の内服薬とされています。
⚠ この記事の代替案は「多汗症に対する処方」が前提です
プロ・バンサインは多汗症以外にも複数の適応を持つため、供給停止時の代替は「多汗症に対する代替」と「消化器症状・夜尿症などに対する代替」で考え方がまったく異なります。消化器科などから処方されたプロ・バンサインに、多汗症の外用薬を提案するわけではありません。
禁忌・副作用のおさらい
禁忌
- 閉塞隅角緑内障
- 前立腺肥大による排尿障害
- 重篤な心疾患
- 麻痺性イレウス
主な副作用
口渇、眼の調節障害(かすみ目)、便秘、排尿障害、頭痛、眠気、腹部膨満感、心悸亢進 など
汗を止めるということは、ほかの分泌も抑えるということ。口渇がいちばん多いのは、薬の作用を考えると納得です。
高温環境での体温上昇にも注意
抗コリン作用で発汗が抑えられるため、暑い環境での運動、長時間の屋外活動、入浴・サウナなどでは体温が上がりやすくなります。
とくに夏場や暑い場所で作業をする患者さんには、めまい、強いだるさ、頭痛、ほてりなどがあれば無理をせず相談するよう案内しておきたいところです。
何が起きているのか
ファイザーの案内(2026年9月)と厚労省の供給状況報告によると、経緯は次のとおりです。
プロ・バンサイン錠15mgは、大幅な需要増に対応するため増産が続けられていましたが、さらなる需要増により、2025年6月から限定出荷となっていました。
その後、海外の委託製造所で製造された原薬に異物混入が確認されたため、調査と再発防止策が完了するまで製造が保留され、2026年9月に出荷停止となりました。
厚労省の供給状況報告では、2026年9月4日付で「供給停止」、理由は「品質トラブル」とされています。出荷再開時期は未定です。
なお、ファイザーは、現在流通している製品には、異物混入が確認された原薬とは異なる原薬が使われていると案内しています。
また、ファイザーからは、納入が困難な場合や在庫がなくなった後は、代替品での処方や代替治療を検討してほしいとのお願いが出ています。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年6月 | 需要増のため限定出荷 |
| 2026年9月 | 原薬の異物混入により製造保留 → 出荷停止(厚労省報告では9月4日付で「供給停止」) |
| 再開時期 | 未定 |
ここで押さえておきたいのは、次の3点です。
- 販売中止や薬価削除が決まったわけではないが、現在は供給停止・出荷停止の状態
- 同成分・同規格の後発品や代替銘柄がないため、単純な銘柄変更では対応できない
- 再開時期は未定で、短期的な供給再開を前提にした対応は難しい
つまり、今プロ・バンサインを飲んでいる患者さんは、残薬が尽きる前に、部位・重症度・これまでの治療をふまえて、治療方針の再検討が必要になる可能性があるということです。
処方医と相談するときの考え方
プロ・バンサインの処方が来て、在庫が手に入らない場合、処方医に疑義照会することになります。
そのとき、「在庫がありません」だけで終わらせず、判断材料になる情報をそろえて相談できるかが、薬剤師の腕の見せどころだと思います。
ポイントは、汗が出る部位によって代替の考え方が変わることです。
部位ごとの選択肢
| 部位 | 検討されうる治療 |
|---|---|
| わき(腋窩) | 外用抗コリン薬:エクロックゲル5%(ソフピロニウム臭化物)、ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)/塩化アルミニウム外用/A型ボツリヌス毒素の局注 |
| 手のひら(手掌) | 外用抗コリン薬:アポハイドローション20%(オキシブチニン塩酸塩)/塩化アルミニウム外用/イオントフォレーシス |
| 足の裏(足底) | 塩化アルミニウム外用や、実施可能な医療機関でのイオントフォレーシス。腋窩・手掌に比べると、保険適用の外用抗コリン薬での置き換えは難しい部位 |
| 頭・顔 | 保険適用の外用抗コリン薬による代替が現時点で限られる。これまで内服療法が検討されてきた部位のため、供給停止の影響が相対的に大きいと考えられる |
外用抗コリン薬は、それぞれ適応部位が決まっています。
エクロックゲルとラピフォートワイプは原発性腋窩多汗症、アポハイドローションは原発性手掌多汗症に対する製剤です。
プロ・バンサインのように全身の多汗を一律にカバーする薬ではない、という点は押さえておきましょう。
💡 塩化アルミニウム外用は、原発性局所多汗症に広く用いられることがありますが、製剤の形や保険診療上の扱いは施設・地域によって異なります。イオントフォレーシスやボツリヌス毒素の局注も、実施できるかどうかは医療機関によって違います。いずれも、処方医・医療機関の運用を確認したうえでの選択肢です。
内服薬の選択肢について
ガイドラインでは、プロパンテリン以外の内服の選択肢として、トフィソパム(グランダキシン)やクロニジン(カタプレス)も推奨度C1で挙げられています。
ただし、これらは多汗症に保険適用がなく、プロ・バンサインと同じ抗コリン薬でもありません。作用のしくみも副作用も異なります(たとえばクロニジンは降圧薬で、血圧低下や眠気などに注意が必要です)。
代替処方として一律に提案するものではなく、部位、重症度、併存症、副作用のリスク、保険診療上の扱いをふまえて、処方医が個別に判断する選択肢です。
疑義照会の前に確認しておきたいこと
処方医との相談をスムーズにするために、次の情報をそろえておくと安心です。
まず確認すること
- 処方の目的が本当に多汗症か(プロ・バンサインの処方目的は多汗症とは限りません。処方箋や薬歴から明確でない場合は、代替を考える前に目的の確認が必要です)
- 原発性局所多汗症か、ほかの病気による多汗症(続発性)か
多汗症の場合に確認すること
- 汗が出る部位(単独か複数か。処方箋からはわからないことが多い)
- 手元にあと何日分残っているか、実際の飲み方(タイミング・回数)
- これまでに外用薬を使ったことがあるか、そのときの効果や副作用
- ボツリヌス毒素の局注やイオントフォレーシスを受けたことがあるか・受けられる環境か
安全面で確認すること
- ほかに抗コリン作用のある薬を飲んでいないか
- 緑内障、排尿障害、便秘、心臓の病気などの既往
- 通院先と次回の受診日
とくに部位の情報は、処方医が代わりの治療を考えるときの前提になります。
投薬のときに患者さんから聞き取って薬歴に残しておくと、次回の疑義照会がスムーズです。
患者さんへの説明で気をつけたいこと
多汗症は、見た目ではわかりにくいけれど、生活の質に大きく影響する病気です。
「汗くらいで」と受け取られがちなことに、つらさを感じている患者さんも少なくありません。
説明のときに意識したいのは、次の3つです。
1. 自己判断で飲み方を変えて「節約」しない
供給停止と聞くと、手元の薬を長持ちさせようとして、自己判断で回数や量を減らしてしまう方もいます。
自己判断で回数や用量を変えて残薬を延ばそうとしないよう説明し、残薬がなくなる前に、主治医や処方元に連絡して次の治療方針を相談するよう案内します。
2. 切り替えの選択肢があることを伝える
「もう薬がない」ではなく、「部位によっては塗り薬などの選択肢がある」と伝えるだけでも、不安はずいぶん和らぐと思います。
ただし、どの治療にするかは主治医が判断すること、という前提は添えておきます。
3. 外用抗コリン薬に切り替わったときの目の注意は、製剤ごとに
外用抗コリン薬は、薬が目に入ると散瞳、まぶしさ、かすみ目などが起こることがあります。
ただ、手を洗うタイミングは製剤によって違うので、ここは正確に伝えたいところです。
| 製剤 | 使い方と手洗いのポイント |
|---|---|
| エクロックゲル | 手に付いた薬はすぐに洗い流し、手で目に触れないようにする |
| ラピフォートワイプ | 使ったあと、すぐに手をよく洗う |
| アポハイドローション | 就寝前に手のひらに塗る薬。塗ったあとは手を濡らさず、起床後に手を洗うまで目などに触れない |
アポハイドに「塗ったらすぐ手を洗ってください」と伝えてしまうと、薬が落ちて効果が出ません。
逆に、エクロックやラピフォートで手洗いを忘れると、目のトラブルにつながります。
製剤ごとの違いをセットで覚えておくのが大切だと感じました。
💡 抗コリン薬と認知機能について
抗コリン作用を持つ薬の累積使用と、認知機能の低下・認知症のリスクとの関連は、主に高齢者を対象とした観察研究で報告されています。ただし、因果関係や、多汗症の患者さんにそのまま当てはまるかどうかは明確ではありません(原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版の「内服療法」の項にも注記があります)。
高齢の方、認知機能が低下している方、複数の抗コリン薬を併用している方では、抗コリン負荷を意識して処方医と共有しておくことが大切です。
調べてみて感じたこと
ルリコンやケフラールのときは、「同じ成分の別の会社の薬」や「近い薬」を探すことで、なんとか対応ができました。
でもプロ・バンサインは、後発品もなく、同じ位置づけの飲み薬もない。
供給不足の中でも、とくに影響の大きいパターンだと感じました。
一方で、ここ数年でわきや手のひらの外用抗コリン薬が次々と出てきたのも事実です。
「飲み薬がなくなった」ではなく、「部位に合った治療を見直すきっかけ」と捉えられれば、患者さんにとって悪いことばかりではないのかもしれません。
そのためにも、薬剤師が部位ごとの選択肢と、製剤ごとの使い方の違いを知っておくことが大切だと思います。
処方が来たときに、処方医に判断材料をそろえて相談できるように、準備しておきたいですね🌿
まとめ
- プロ・バンサイン錠15mgは、多汗症に保険適用のある唯一の内服抗コリン薬
- 2025年6月から限定出荷、原薬の異物混入により2026年9月に出荷停止(厚労省報告では9月4日付で供給停止)。再開時期は未定
- 同成分・同規格の後発品や代替銘柄はなく、単純な銘柄変更では対応できない
- 代替の考え方は部位によって変わる
- わき:エクロックゲル、ラピフォートワイプ など
- 手のひら:アポハイドローション、イオントフォレーシス など
- 足の裏・頭・顔:保険適用の外用代替が限られる
- トフィソパム・クロニジンは保険適用外で別の作用機序。一律の代替ではなく処方医が個別に判断
- 疑義照会では、まず処方目的が多汗症かを確認し、部位・残薬・既治療・安全面の情報をそろえる
- 患者さんには、自己判断で節約しないこと、外用薬は製剤ごとに手洗いのタイミングが違うことを伝える
供給状況は日々変わります。実際に対応するときは、最新の情報と電子添文を必ず確認してください。
少しでも参考になれば嬉しいです😊
参考
- 厚生労働省「医療用医薬品の供給状況」(2026年9月25日公表分)
- ファイザー「プロ・バンサイン錠15mgの出荷停止に関するお詫び」(2026年9月)
- プロ・バンサイン錠15mg 電子添文
- エクロックゲル5%、ラピフォートワイプ2.5%、アポハイドローション20% 電子添文
- 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)」CQ5「内服療法は多汗症に有効か?」
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