【抗がん剤シリーズ①】肺がんの薬物療法を分類から整理してみた

はじめに

がん種ごとの薬物療法は、日々新しい薬が登場していて、病院を離れると情報が追いつきにくい分野だと感じています。特に肺がんは、遺伝子変異ごとに使う薬が細かく枝分かれしていて、「結局どれが何に効くのか」が整理しにくい領域です。

このシリーズでは、がん種ごとに使われる薬を分類から整理していきます。第1回は肺がんです。点滴で使う薬も含めて全体像を押さえたうえで、薬局としてどこに関わるのかも整理します。


肺がんの大分類

肺がんは、がん細胞の見た目(組織型)によって大きく2つに分かれます。

  • 非小細胞肺がん(NSCLC):肺がん全体の約85%を占め、さらに腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんなどに分類されます¹
  • 小細胞肺がん(SCLC):残りの約15%。増殖が速く転移しやすい一方、抗がん剤や放射線が効きやすいという特徴があります¹

治療薬の選び方はこの2つでまったく異なるため、まずはここを分けて考えます。


非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬

殺細胞性抗がん剤(従来型の化学療法)

プラチナ製剤(シスプラチン〈ランダ・ブリプラチン〉、カルボプラチン〈パラプラチン〉)に、ペメトレキセド(アリムタ)・パクリタキセル(タキソール)・ドセタキセル(タキソテール)・ゲムシタビン(ジェムザール)・ビノレルビン(ナベルビン)などを組み合わせる「プラチナ併用療法」が基本です。後述する分子標的薬の対象となる遺伝子変異が見つからない場合や、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせる場合に使われます。これらはすべて点滴(静脈注射)で投与する薬です。

分子標的薬(ドライバー遺伝子変異ごと)

NSCLCの大きな特徴は、原因となる遺伝子変異(ドライバー変異)が見つかった場合、その変異をピンポイントで狙う飲み薬が数多く承認されている点です²。ただし、変異ごとの頻度には大きな差があり、「よく見かける変異」と「見つかること自体が稀な変異」が混在しています。日本人の肺腺がんにおける変異頻度を踏まえて、頻度別に整理します⁸。

比較的よく遭遇する変異(腺がんの5%以上)

ドライバー変異頻度の目安代表的な薬(一般名/商品名)剤形
EGFR変異約50%オシメルチニブ(タグリッソ)錠
ダコミチニブ(ビジンプロ)錠
アファチニブ(ジオトリフ)錠
ALK融合遺伝子約5%アレクチニブ(アレセンサ)カプセル
ブリグチニブ(アルンブリグ)錠
ロルラチニブ(ローブレナ)錠

EGFR変異は肺腺がんの約半数を占め、国内で最も一般的なドライバー変異です。地域の薬局で分子標的薬つきの肺がん患者さんに出会うとしたら、まずこのEGFR変異に対するオシメルチニブ(タグリッソ)である可能性が高いといえます。ALK融合遺伝子も、他の変異に比べれば遭遇しやすい部類です。

頻度は低いが、検査で見つかることがある変異(2〜4%程度)

ドライバー変異頻度の目安代表的な薬(一般名/商品名)剤形
MET変異(エクソン14スキッピング)約2〜4%テポチニブ(テプミトコ)錠
カプマチニブ(タブレクタ)錠
KRAS G12C変異約2〜3%ソトラシブ(ルマケラス、2022年1月国内承認)³錠
RET融合遺伝子約2〜3%セルペルカチニブ(レットヴィモ)カプセル
HER2(ERBB2)遺伝子変異約2〜3%ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス、2025年9月承認)⁴錠
トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)点滴静注用
ROS1融合遺伝子約1〜2%クリゾチニブ(ザーコリ)カプセル
エヌトレクチニブ(ロズリートレク)カプセル
BRAF V600E変異約1%ダブラフェニブ(タフィンラー)カプセル
+トラメチニブ(メキニスト)(併用)錠

非常に稀な変異(1%未満)

ドライバー変異頻度の目安代表的な薬(一般名/商品名)剤形
NTRK融合遺伝子1%未満エヌトレクチニブ(ロズリートレク)カプセル
ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ)カプセル

NTRK融合遺伝子は、肺がんに限らずさまざまながん種を横断して非常に稀にしか見つからない変異です。正直なところ、地域の薬局で実際に遭遇する可能性は低く、「こういう薬もある」という知識として押さえておく程度で十分だと思います。

同じ遺伝子変異でも複数の薬が使えるようになってきており、有効性だけでなく、副作用のプロファイルや患者さんの状態に応じて使い分けられる時代になっています²。ただし、上記のとおり実際に出会う確率には大きな差があるため、まずはEGFR・ALKを押さえ、それ以外は「こういう分類がある」という辞書的な知識として持っておく、というスタンスで十分だと感じています。

ここで注意したいのは、「HER2陽性」という言葉には、HER2(ERBB2)遺伝子変異と、HER2タンパクの過剰発現・遺伝子増幅という、別々の意味が含まれている点です。ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス)は前者のHER2遺伝子変異陽性・化学療法後に増悪したNSCLCに対して2025年9月に承認された経口薬で、国内初の経口HER2阻害薬です⁴。エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)はHER2変異陽性肺がんでも使われてきた点滴薬ですが、がん種を横断したHER2陽性固形がんへの適応拡大が報じられているものもあり、対象となる患者さんの条件(遺伝子変異か過剰発現・増幅か、前治療歴など)は電子添文で個別に確認する必要があります⁵。

免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬は、ドライバー遺伝子変異が見つからない進行・再発NSCLCで重要な治療選択肢です。変異が見つかった場合でも、分子標的薬や化学療法の後に使用が検討されることがありますが、変異の種類や前治療、PD-L1発現、全身状態などによって順序は個別に判断されます。肺がん領域で代表的な薬は以下の4剤です⁶。

分類薬(一般名/商品名)国内承認剤形
抗PD-1抗体ニボルマブ(オプジーボ)2015年点滴静注用
抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(キイトルーダ)2016年点滴静注用
抗PD-L1抗体アテゾリズマブ(テセントリク)2018年点滴静注用
抗PD-L1抗体デュルバルマブ(イミフィンジ)2018年点滴静注用

免疫チェックポイント阻害薬は、いずれも点滴静注のみで、内服薬はありません。

ペムブロリズマブは、がん細胞のPD-L1発現率が一定以上の患者さんに単独で使われることがある一方、他の薬はプラチナ併用化学療法と組み合わせたり、化学療法後の治療として使われたりと、使い方に幅があります⁶。


小細胞肺がん(SCLC)の治療薬

SCLCは増殖が速い分、抗がん剤が効きやすいという特徴があり、治療の中心は今も点滴の殺細胞性抗がん剤です。

  • 初回治療:プラチナ製剤(シスプラチン・カルボプラチン、点滴静注用)+エトポシド(ラステット・ベプシド)が標準的な組み合わせで、進展型(転移がある場合)ではここに免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブ(イミフィンジ、点滴静注用)またはアテゾリズマブ(テセントリク、点滴静注用)を併用することで、生存期間の延長が示されています⁷。どちらを使うかは治療施設や患者さんの状態によって選択されます。エトポシドは主に点滴静注用として使われますが、ラステット・ベプシドにはカプセル(内服)の製剤もあります。
  • 再発時の治療:アムルビシン(カルセド、点滴静注用)単剤などが選択肢になります⁷。なお、海外で使われているルルビネクテジン(ゼプゼルカ、点滴静注用)は、この記事の執筆時点では国内未承認です。

NSCLCのように遺伝子変異ごとに細かく薬を選ぶ、という発想はSCLCではまだ一般的ではなく、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬が中心という点が大きな違いです。


薬局として関わる範囲を整理する

肺がんの治療薬は、大きく「点滴でしか使えない薬」と「飲み薬(内服)で使える薬」に分かれます。

  • 点滴のみ:プラチナ製剤、多くの殺細胞性抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬、エンハーツなどの抗体薬物複合体(ADC)
  • 内服可能:EGFR・ALK・ROS1・BRAF・MET・RET・KRAS・NTRKの各分子標的薬、およびHER2遺伝子変異陽性に対するゾンゲルチニブ(HER2陽性肺がんには、この他にエンハーツのような点滴薬もあります)

内服の分子標的薬は、外来通院しながら自宅で服用を続ける薬なので、地域の薬局が実際に調剤・服薬指導に関わる場面が増えています。点滴薬は基本的に病院・がん専門施設での投与になりますが、内服の分子標的薬に切り替わったタイミングで、地域の薬局にお薬手帳を持って来局される患者さんも今後増えていくと感じています。

EGFR変異やALK融合遺伝子に対する分子標的薬は以前から使われていましたが、ROS1・BRAF・MET・RET・KRAS G12C・HER2・NTRKといった変異は、その後の期間で次々と治療対象に加わったものですし、免疫チェックポイント阻害薬が治療の柱として定着したのも近年のことです。改めて調べ直してみて、これだけ選択肢が増えて枝分かれが進んでいることに驚きました。地域の薬局にこうした患者さんが増えていくとすれば、変異の種類ごとに薬の位置づけを整理しておく意味は大きいと感じています。


薬局で働いて気づいたこと

地域の薬局で分子標的薬を扱う際は、単に「肺がんの薬」とひとくくりにせず、どの遺伝子変異に対する薬なのかを意識しておくと、相互作用の確認や副作用モニタリングの説明に深みが出せそうだと感じました。

一方で、調べてみると変異ごとの頻度にはかなり差があり、EGFR変異だけで肺腺がんの約半数を占める一方、NTRK融合遺伝子のように1%未満のものまであります。実際に地域の薬局で出会う可能性を考えると、全部を同じ熱量で覚えるより、頻度の高いEGFR・ALKあたりをしっかり押さえ、それ以外は「そういう分類があると知っておく」程度に留めておくほうが、実務としては現実的だと感じました。


まとめ

肺がんは非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)に大きく分かれ、治療薬の選び方もまったく異なります。NSCLCでは、EGFR・ALK・ROS1など9種類のドライバー遺伝子変異それぞれに対応する分子標的薬が承認されていますが、その頻度には大きな差があり、EGFR変異(腺がんの約50%)とALK融合遺伝子(約5%)以外は、いずれも数%以下の稀な変異です。変異が見つからない場合は免疫チェックポイント阻害薬や殺細胞性抗がん剤が中心になります。SCLCは今も化学療法+免疫チェックポイント阻害薬が治療の柱です。分子標的薬の多くは内服薬として地域の薬局でも扱う機会があるため、どの変異に対応する薬かを整理しておきたいところです。

続編として、EGFR・ALK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の服薬指導ポイントをまとめた記事も書きました。次回は乳がんを予定しています。


関連記事:EGFR・ALK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬、実際に何を説明する?(服薬指導編)


参考文献

  1. 肺癌診療ガイドライン(日本肺癌学会)組織型分類・疫学関連
  2. 日経メディカル がんナビ「非小細胞肺がんにおける分子標的治療の最近のトピックス」
  3. KRAS G12C阻害薬(ソトラシブ)国内承認関連報道
  4. 日経メディカル「HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に初の経口チロシンキナーゼ阻害薬」(ゾンゲルチニブ、2025年9月承認)
  5. オンコロ「エンハーツ、HER2陽性の進行・再発固形がんに対する治療薬として承認取得」(2026年3月)
  6. がん情報サイト・学会資料「肺がんの免疫チェックポイント阻害療法」
  7. 肺癌診療ガイドライン2025年版「進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)」/ルルビネクテジンの国内承認状況に関する各種報道(2026年9月時点で国内未承認)
  8. 「肺がんとともに生きる」「主な肺がんの遺伝子変異と遺伝子変異検査について」(日本人肺腺がんにおける変異頻度)

※本記事の情報は執筆時点(2026年9月)のものです。適応・承認状況は今後変更される可能性があるため、実際の服薬指導にあたっては必ず最新の添付文書・診療ガイドラインをご確認ください。

この記事を書いた人
yakuzaishi-real

病院薬剤師として10年以上勤務したのち、30代で薬局薬剤師へ転職しました。抗がん剤の調製やチーム医療、病棟での服薬指導など、病院での経験を土台に、転職体験や薬局の日常を本音でお伝えしています。同じように悩む薬剤師の方の参考になれば嬉しいです😊

yakuzaishi-realをフォローする
抗がん剤シリーズ
シェアする
yakuzaishi-realをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました