【抗がん剤シリーズ②】乳がんの薬物療法を分類から整理してみた

はじめに

抗がん剤シリーズ第2回は乳がんです。乳がんは「サブタイプ」という考え方で治療薬が大きく枝分かれするのが特徴で、同じ乳がんでも使う薬がまったく異なることがあります。今回もまずは全体像を分類の視点で整理してみます。


乳がんの大分類:サブタイプで治療が変わる

乳がんは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)とHER2というタンパクの発現状況によって、大きく4つのサブタイプに分けられます。

おおよその割合として、ホルモン受容体陽性・HER2陰性(ルミナルタイプ)が全体の6割程度を占め、HER2陽性タイプが1〜2割、ホルモン受容体もHER2も陰性のトリプルネガティブタイプが1〜2割程度とされています。

このサブタイプによって使う薬の系統がほぼ決まるため、以下ではサブタイプごとに分けて整理します。


ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬(ホルモン療法)

乳がん全体で最も多いタイプで、女性ホルモン(エストロゲン)ががんの増殖を促進する性質を利用し、エストロゲンの分泌や作用を抑える薬が中心になります。閉経前か閉経後かで使う薬が変わる点が特徴です。

閉経後に使われる薬:アロマターゼ阻害薬

一般名商品名剤形
アナストロゾールアリミデックス錠
レトロゾールフェマーラ錠
エキセメスタンアロマシン錠

いずれも経口薬で、1日1回の服用です。

閉経前後を問わず使われる薬

一般名商品名剤形
タモキシフェンノルバデックス錠
フルベストラントフェソロデックス筋注(臀部への注射)

タモキシフェンは経口薬ですが、フェソロデックスは筋肉内注射という点で他のホルモン療法薬と投与経路が異なります。

閉経前に使われる薬:LH-RHアゴニスト

一般名商品名剤形
リュープロレリンリュープリン皮下注(徐放性)
ゴセレリンゾラデックス皮下注(徐放性)

卵巣機能を抑制することでエストロゲンの分泌自体を止める薬で、注射薬として月1回〜数か月に1回投与されます。

CDK4/6阻害薬(ホルモン療法との併用薬)

進行・再発乳がんでは、上記のホルモン療法単独よりも、CDK4/6阻害薬という分子標的薬を併用する治療が標準的になっています。

一般名商品名剤形
パルボシクリブイブランスカプセル
アベマシクリブベージニオ錠
リボシクリブキスカリ錠

いずれも経口薬で、ホルモン療法薬と組み合わせて使われます。


HER2陽性乳がんの治療薬

HER2というタンパクの過剰発現・遺伝子増幅があるタイプで、HER2を標的とした分子標的薬(抗HER2療法)が治療の中心になります。

一般名商品名剤形
トラスツズマブハーセプチン点滴静注用
ペルツズマブパージェタ点滴静注用
トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)カドサイラ点滴静注用
トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)エンハーツ点滴静注用

治療の組み立てとしては、初回治療にトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン系抗がん剤の3剤併用が代表的な選択肢です。効果が乏しくなった後の二次治療としては、直接比較試験でカドサイラより効果が上回ったエンハーツが標準治療の一つとされ、カドサイラはその後の治療歴や患者さんの状態に応じて選択されます。


トリプルネガティブ乳がんの治療薬

ホルモン受容体もHER2も陰性のタイプで、上記のホルモン療法・抗HER2療法の標的がないため、殺細胞性の化学療法が治療の中心になります。近年は免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬という新しい選択肢も加わっています。

殺細胞性抗がん剤

一般名商品名剤形
ドキソルビシンアドリアシン点滴静注用
エピルビシンファルモルビシン点滴静注用
パクリタキセルタキソール点滴静注用
ドセタキセルタキソテール点滴静注用
nab-パクリタキセルアブラキサン点滴静注用

アンスラサイクリン系(ドキソルビシン・エピルビシン)とタキサン系(パクリタキセル・ドセタキセル)を組み合わせるのが標準的な流れです。

PARP阻害薬

BRCA遺伝子変異が確認された場合に使われる薬です。

一般名商品名剤形
オラパリブリムパーザ錠

経口薬で、日本初の遺伝性乳がん治療薬として承認された薬です。

免疫チェックポイント阻害薬

PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに使われます。

一般名商品名剤形
ペムブロリズマブキイトルーダ点滴静注用

早期の再発高リスクのトリプルネガティブ乳がんに対して、手術前後の治療としても使われるようになっています。


サブタイプを問わず使われる薬

一般名商品名剤形
カペシタビンゼローダ錠
エリブリンメシル酸塩ハラヴェン点滴静注用

ゼローダは数少ない経口の抗がん剤で、単独でも他剤との併用でも使われます。


治療の場面で見る:周術期と進行・再発での使い分け

ここまではサブタイプ別に薬を並べましたが、同じ薬でも「周術期(手術前後)」か「進行・再発」かで、使い方や組み合わせ方、治療のゴールが変わってきます。

周術期(術前・術後)の代表的なレジメン

周術期は根治を目指し、あらかじめ決まった期間・サイクル数で治療が完結するのが特徴です。

  • AC療法:ドキソルビシン+シクロホスファミド
  • EC療法:エピルビシン+シクロホスファミド
  • TC療法:ドセタキセル+シクロホスファミド
  • AC→T(dose-dense含む):AC療法を数サイクル行った後にパクリタキセルへ切り替える組み立て

HER2陽性の場合はここに抗HER2薬が加わります。

  • AC→THP:AC療法の後、パクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ
  • TCHP:ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ

再発高リスクの早期トリプルネガティブ乳がんでは、化学療法にキイトルーダ(ペムブロリズマブ)を組み合わせる治療(KEYNOTE-522レジメン)が術前に行われ、手術後もキイトルーダ単独投与が一定期間続きます。

進行・再発における一次治療の考え方

進行・再発では根治よりも病勢のコントロールと生活の質の維持が目標になり、効果が続く限り治療を継続するという点が周術期と大きく異なります。

  • ホルモン受容体陽性・HER2陰性:ホルモン療法薬+CDK4/6阻害薬(イブランス・ベージニオ・キスカリのいずれか)の併用が一次治療の中心
  • HER2陽性:トラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン系(ドセタキセルなど)の3剤併用(CLEOPATRAレジメン)が一次治療。効果が乏しくなった後の二次治療としてはエンハーツが標準治療のひとつとされ、カドサイラはその後の治療歴などに応じて選択される
  • トリプルネガティブ:化学療法単独が基本ですが、PD-L1陽性であれば免疫チェックポイント阻害薬の併用、BRCA遺伝子変異陽性であればリムパーザなど、バイオマーカーの有無によって選択肢が分かれる

同じ薬剤名が出てきても、周術期の処方と進行・再発の処方では「いつまで続くか」「何のための治療か」という前提が違うため、薬局として説明する内容も自然と変わってくる部分だと感じます。


薬局として関わる範囲を整理する

点滴薬(ハーセプチン、パージェタ、カドサイラ、エンハーツ、アンスラサイクリン系・タキサン系の殺細胞性抗がん剤、キイトルーダなど)は病院で投与されるため、薬局が直接調剤する機会はほとんどありません。

一方、ホルモン療法薬、CDK4/6阻害薬、リムパーザ、ゼローダなど経口薬は院外処方箋として薬局に来ることが多く、長期間にわたって服用を続ける薬でもあるため、薬局が継続的にフォローできる部分だと感じます。


薬局で働いて気づいたこと

乳がんのホルモン療法薬は5年、10年という単位で長期間服用が続くことが多く、他の抗がん剤とは服薬指導の性質が少し異なると感じています。開始直後の副作用だけでなく、長期服用における骨密度低下や脂質異常など、定期的な検査値の推移を意識した関わり方が必要になる薬だと思います。

またCDK4/6阻害薬はホルモン療法薬との併用が前提になっている薬が多く、処方箋を見たときに「この薬とこの薬はセットで使われている」という組み合わせのパターンを把握しておくと、飲み忘れや残薬の確認がしやすくなると感じています。


まとめ

今回は乳がんの薬物療法を、ホルモン受容体・HER2という2つの軸で決まるサブタイプの視点から整理しました。同じ乳がんでも使う薬の系統がサブタイプによって大きく変わる点が、肺がんの遺伝子変異による分類とはまた違った難しさだと感じます。

続編として、ホルモン療法薬とCDK4/6阻害薬の服薬指導ポイントをまとめた記事も書きました。次回は胃がんを予定しています。


関連記事:ホルモン療法薬とCDK4/6阻害薬、実際に何を説明する?(服薬指導編)


参考文献


※本記事の情報は執筆時点(2026年9月)のものです。適応・承認状況は今後変更される可能性があるため、実際の服薬指導にあたっては必ず最新の添付文書・診療ガイドラインをご確認ください。

この記事を書いた人
yakuzaishi-real

病院薬剤師として10年以上勤務したのち、30代で薬局薬剤師へ転職しました。抗がん剤の調製やチーム医療、病棟での服薬指導など、病院での経験を土台に、転職体験や薬局の日常を本音でお伝えしています。同じように悩む薬剤師の方の参考になれば嬉しいです😊

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