はじめに
前回の記事では、肺がんの薬物療法を「どんな種類の薬があるか」という分類の視点で整理しました。
今回はその続編として、実際に窓口で説明する場面を想定した「服薬指導編」です。数ある分子標的薬をすべて網羅すると散漫になってしまうので、まずは頻度の高いEGFR阻害薬・ALK阻害薬、そして肺がん治療の柱のひとつである免疫チェックポイント阻害薬の3つに絞って書いてみます。
分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬に共通する注意点:間質性肺疾患(ILD)
今回取り上げる3系統の薬すべてに共通して重要なのが、間質性肺疾患(間質性肺炎)です。頻度としては高くないものの、重篤化すると命に関わることがあるため、添付文書でも重大な副作用の筆頭に挙げられています。
説明のポイントとしては、「息切れ」「空咳」「発熱」という3つの初期症状を伝えておくことに尽きます。風邪と間違われやすい症状なので、「風邪っぽい症状が続くときは自己判断で様子を見ず、早めに連絡してください」という声かけが実務的には効果的だと感じます。
EGFR-TKI(タグリッソなど)の服薬指導ポイント
飲み方
食事の有無に関わらず、毎日同じ時間に服用してよいとされています。飲み忘れた場合の対応は次の服用時刻までの間隔によって異なるため、自己判断で2回分をまとめて服用せず、患者向け資材や処方医・薬剤師の指示に沿って確認しておきたいところです。
皮膚障害・爪囲炎
タグリッソでは皮膚症状の発現率が高く、治療開始後1〜2ヶ月以内に出やすいとされています。乾燥やかゆみ、爪の周りの発赤・腫れ(爪囲炎)が代表的で、保湿ケアを早めから習慣化してもらうことが予防につながります。悪化すると生活に支障が出るレベルになることもあるため、「軽いうちに相談してほしい」と伝えておくと早期対応しやすくなります。
下痢
比較的よくみられる副作用で、多くは軽度〜中等度です。あらかじめ処方されている整腸剤・止瀉薬を指示どおりに使いながら水分を保つのが基本で、市販薬を自己判断で新たに追加する前に、まず相談してもらうよう伝えておきたいところです。水様便が何度も続くような場合は脱水のリスクがあるため、受診を勧める目安として説明しておくとよさそうです。
QT延長
定期的な心電図検査・電解質検査(カリウム・マグネシウム・カルシウムなど)が必要とされています。他院・他科からQT延長を起こしうる薬(一部の抗不整脈薬、抗菌薬など)が追加で処方されていないか、併用薬の確認も薬局として意識しておきたいポイントです。
血球減少
血小板減少・好中球減少などが報告されているため、出血しやすさ(歯磨き・鼻をかむ際の注意)や感染徴候について触れておく場面もあります。
ALK阻害薬(アレセンサなど)の服薬指導ポイント
便秘
アレセンサでは便秘が比較的よくみられる副作用です。生活に支障が出る前に相談してもらい、市販の便秘薬を自己判断で追加する前に、まず処方医・薬剤師に確認してもらうよう伝えておきたいところです。
徐脈
脈が遅くなることがあるため、めまいやふらつきが出た場合は連絡してもらうよう説明します。
光線過敏症
紫外線に対して過敏になることがあり、日焼け止めや日傘・帽子での対策が必要です。特に夏場は説明を重点的に行いたいポイントです。
CK(クレアチンキナーゼ)上昇
筋肉痛や脱力感といった症状が出た場合は横紋筋融解症などの可能性もあるため、早めの相談を促す説明が必要です。
肝機能障害
AST・ALTやビリルビンの上昇といった肝機能障害にも注意が必要です。強いだるさ、食欲低下、黄疸、褐色尿などがあれば早めに連絡してもらうよう伝え、定期採血の予定も確認しておきたいポイントです。
自己判断での中断
「体調がよくなった気がするので飲むのをやめた/減らした」という自己判断は病状悪化につながる可能性があるため、必ず医師の指示に従うよう繰り返し伝える必要があります。
免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボ・キイトルーダなど)の服薬指導ポイント
免疫チェックポイント阻害薬は点滴薬のため、薬局で直接調剤・投与することはほぼありません。ただ、外来通院を続ける患者さんと接する機会は多く、体調の変化に気づくきっかけになれる立場でもあると感じます。
irAE(免疫関連有害事象)という特有の仕組み
irAEは、免疫にブレーキをかける仕組みを阻害する薬の作用機序上、自己免疫疾患に似た炎症反応があらゆる臓器で起こりうるという点が、これまでの抗がん剤の副作用とは性質が異なります。
代表的なものとして、皮膚障害、下痢・大腸炎、間質性肺炎、甲状腺機能異常(亢進・低下)や下垂体炎などの内分泌障害、1型糖尿病などが報告されています。
発現時期の幅広さ
irAEは治療開始早期に認められることもありますが、臓器ごとに発現しやすい時期は異なり、投与開始から数か月後、あるいは治療終了後に出現することもあります。「治療が終わったから安心」ではなく、しばらくは体調の変化に注意を払い続ける必要がある点は、患者さんにも伝えておきたい情報だと感じます。
薬局としてできること
点滴そのものへの関与は限られますが、外来受診の合間に立ち寄られた際の「最近体調はどうですか」という声かけや、いつもと違う症状(だるさが続く、下痢が続く、息切れがするなど)が出ていないかの確認は、薬局の立場でも十分にできることだと思います。他院での風邪薬やサプリメントの相談を受けた際に、その症状がirAEのサインではないかを一度立ち止まって考える視点も必要だと感じます。
薬局で働いて気づいたこと
EGFR阻害薬やALK阻害薬は経口薬のため、実際に院外処方箋を受けて服薬指導をする機会があります。特に皮膚障害や便秘、光線過敏症など、生活に直結する副作用は患者さんご自身の生活習慣の工夫で対応できる部分も多く、薬局でのフォローアップが効果を発揮しやすい領域だと感じています。
一方で免疫チェックポイント阻害薬は点滴のため直接調剤に関わる機会はほとんどありませんが、irAEは通院の合間や別の症状の相談を受けたときに気づくきっかけになりうるものだと思います。がん治療薬を服用している患者さんの「なんとなく体調が悪い」という訴えを、安易に風邪や体調不良として片付けず、治療歴を踏まえて考える視点を持っておく必要があると改めて感じました。
まとめ
今回はEGFR阻害薬・ALK阻害薬・免疫チェックポイント阻害薬の3つに絞って、実際の服薬指導で確認しておきたいポイントを整理しました。前回の分類編と合わせて読んでいただくと、薬の位置づけと実際の注意点の両方がつながりやすいのではないかと思います。
次回以降、他の変異に対する分子標的薬や、乳がんの薬物療法についても書いていく予定です。
参考文献
- タグリッソ錠40mgの基本情報(薬効分類・副作用・添付文書など)|日経メディカル処方薬事典. https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/42/4291045F1027.html
- タグリッソ®錠 適正使用のお願い-間質性肺疾患について(日本臨床腫瘍学会). https://www.jsmo.or.jp/news/jsmo/doc/20160713_01.pdf
- タグリッソによるざ瘡様皮疹の対処法:日経メディカル. https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/diquiz/202212/577567_2.html
- タグリッソを服用される患者さんとご家族へ(アストラゼネカ). https://www.tagrisso.jp/pdf/tagrisso_precautions.pdf
- アレセンサカプセル150mgの基本情報|日経メディカル処方薬事典. https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/42/4291032M3021.html
- アレセンサ(アレクチニブ)|がん情報サイト「オンコロ」. https://oncolo.jp/drugs/alecensa
- 比較的多くみられる副作用|アレセンサ(中外製薬). https://pat.chugai-pharm.jp/alc/alcl/side_effects/common.html
- 免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル(厚生労働省). https://www.pmda.go.jp/files/000245271.pdf
- 投与終了後の副作用|irAEアトラス.jp. https://www.iraeatlas.jp/general-remarks/side-effects-after-administration.html
- irAE(免疫関連副作用)|オプジーボ.jp. https://www.opdivo.jp/irae
※本記事の情報は執筆時点(2026年9月)のものです。適応・承認状況や副作用の詳細は今後変更される可能性があるため、実際の服薬指導にあたっては必ず最新の添付文書・診療ガイドラインをご確認ください。


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